話題の民事信託(家族信託)ってどんなもの?

民事信託ってどういうもの?

成年後見や公正証書遺言に代わって近ごろ話題の「民事信託」(家族のための民事信託、で「家族信託」という場合も)。後見制度みたいにいちいち家庭裁判所とやり取りしなくてよくて、公正証書遺言よりも柔軟性があるっていうけど、どんなときに使えるもの? 費用は? それさえあれば遺言や後見制度は不要の万能選手なの?

桂子 勝

さまざまな疑問があるでしょうが、まずは、どんな特徴があるのかチェックしてみましょう。

民事信託のポイント

  1. 委託者(頼む人)、受託者(行う人)、受益者(残余財産をもらう人)を基本として(※)、どんな財産を信託し、どのように使うのかをオーダーメイドで個別に契約する
    ※ケースによって、士業の専門職などが「受益者代理人」や「信託監督人」として、信託事務がきちんと遂行されるように見守る
  2. 信託された財産は、誰のものでもない「宙に浮いた財産」となる(金融機関で「信託口口座」をつくると、受託者が口座の管理をできるようになる)
  3. 遺産から切り離されるので、たとえば親族以外の誰かに死後事務を頼むとき、法定相続人に邪魔されずに費用を引き継がせることができる
  4. 遺言では「遺産を誰に渡す」と一義的にしか決められないが、「この人にあげて、余りがあればこの人に…」と次の次の次……と先々まで財産の活用法を指定できる(第二受益者、第三受益者……を自在に設定できる)
  5. 不動産の賃貸や処分、証券の運用なども内容に盛り込むことができる

繰り返さず1回限りの信託なら、金融庁のお墨つき不要

中世のRPGの世界を思い浮かべてください。

ナイトが妻と息子を家に残して、戦争に赴くことになりました。家の金庫には母子が30年暮らせるほどの財産が貯えてありますが、金庫のカギを妻に預けると、息子に甘い妻は、放蕩息子にどんどん金銭を与えてしまい、数年で食いつぶしてしまいそうです。

そこでナイト(=委託者)は、町はずれの教会の牧師(=受託者)に、金庫の鍵を預けます(=信託行為)。

「毎月決まった日に金庫の鍵を開け、母子の生活費として10万ギルを渡してほしい。息子が定職に就いて自活することができるいようになったら、こんどは毎月5万ギルを妻の生活費として渡してほしい。そして妻が死んだらこの契約は終了し、残った財産の半分を教会へ寄付し、金庫の鍵を息子に渡してほしい(受益者=息子、教会)」(カギかっこの中が、「信託契約」)

このように、「繰り返すことなく、ある家族のために1度だけ」財産管理を頼む(=信託する)のが、民事信託のイメージです。

繰り返し行うのであれば、信託法ではなく信託〝業〟法の範疇となり、金融庁への免許(運用型の場合)や登録(管理型の場合)が必要となります。

事例 離婚➡再婚したカップルの相続ストーリー

太郎さんは離婚した妻との間に2人の子(次郎、三郎)がいます。
太郎の子たちは妻と生活しており、太郎さんは長らく会っていません。
離婚の数年後、太郎さんは花子さんと再婚することになりました。
花子さんには、18歳のバラ子さんと16歳のウメ子さんという連れ子がいました。
花子さんは親から相続した一軒家に住んでいたので、太郎さんが賃貸アパートを出て、花子さん、バラ子さん、ウメ子さんと一緒に暮らすことになりました。

40年が経過し、バラ子さんもウメ子さんも嫁に行き、それぞれ子が生まれました。
そこで花子さんはふと、疑問に思いました。

「私が太郎さんより先に死んだら、この家は誰のものになるのだろう?」

法定相続人が太郎、バラ子、ウメ子なのはわかっています。

しかし、娘たちは家を出て嫁に行っているので、おそらく自宅は太郎が受け取り、預金などをバラ子、ウメ子がもらうのが簡単な遺産分割になるでしょう。

しかしその後、太郎が亡くなったときは?
花子が両親から受け継いだ家なのに、幼少の頃に太郎と生き別れ、花子は見たことも会ったこともない、太郎の実子、次郎と三郎がこの家を相続することになるの? そんなのイヤだけれど、娘たちは夫と一緒の家を持っており、この古びた家をほしがるとも思えない……

このような場合、自宅についてだけ民事信託にし、受益者をバラ子とウメ子にしておけば無事解決です。
太郎の存命中は太郎が受託者となって、広すぎれば一部をリフォームして貸し出すなど、自由に活用することができます。

今回は簡単な事例を1つだけご紹介しましたが、ほかに「障がいを持つ子のために、親が認知症になったり亡くなったりしたあと、受託者が財産を管理する」事例や、おひとりさまの死後事務で「葬祭費用や納骨費用、遺品整理の費用を信託し、受託者が事務を遂行したあと、残余財産を菩提寺に寄付する」といったスキームが代表例として考えられます。

桂子 勝

民事信託は、いくらくらいかかるの?

新しい制度である民事信託は、遺言や後見に代わるライフエンディングの財産管理方法として着目されています。

足腰が不自由になったり寝たきりになったりしたとき、いちいち委任状を書かなければ銀行口座にある預金を動かせないのでは、世話をする親族も大変です。

まとめて預金をおろしておいて貸金庫で管理することもできますが、現金にしてしまうと誰がどのように使ったのかが不透明になるため、よほど綿密に現金の流れを記帳していても、税務署はその使途などを厳しく追及してきます。

こんな場合も信託を活用し、病院代や施設入所費の支払いなどを振込にして記帳されるようにしておけば、他人が財産を管理しても「本人のために使っている」ということをレシート等で個々に証明する手間が省けます。

民事信託士などの専門職が受託者となる場合は、月々信託報酬を定めることがほとんどです(成年後見人の報酬と同程度の金額で契約するケースが多いようです)。

ただし民事信託は、成年後見と違って家庭裁判所の監督もつかないため、契約通りに事務が遂行されているかどうかを見張る人がいません。そこで、法律に明るくない一般の親族等が受託者となる場合は、信託監督人や受益者代理人として、士業者などの法律専門職がサポートすることで、受託者が財産をほしいままに動かすことなどのないようにすることが推奨されます。
つまり、親族等が受託者となる場合、信託報酬はゼロでもよいのかもしれませんが、こうした専門職への報酬支払が発生してくるので、月に数万円は費用がかかることになります。

また、受託者が他人である場合は、委託者の財産を管理することを目的とした一般社団法人を設立するなどして、受託者が不明瞭な用途に財産を散逸させないよう複数人が理事会で話し合いながら進めるようにすることがあります。この場合、最低でも法人住民税の均等割7万円が毎年かかることになります。

信託契約書を公正証書にする場合は(公正証書でなくても信託口口座をつくれるかどうかは、金融機関の判断によります。現在のところ、親族が受託者であれば公正証書にすることが求められることのほうが多いようです)、当然ながら契約書作成時に公証役場規程の手数料がかかります(契約内容に記された財産の価額による)。

民事信託は、万能選手ではない!

では、民事信託を利用すれば、公正証書遺言や成年後見制度は使わなくてよくなるのでしょうか。

残念ながら、それぞれの制度でカヴァーできる範囲が異なるため、答えはノーです。

民事信託は財産管理の契約なので、後見制度における身上監護(介護や病院に関する契約を結んだり、内容を変更したりすること)のようなことはできません。

また、法定相続人がいるのに、遺留分を無視してすべての財産を信託にしてしまうような事例では、「信託は無効」とされるおそれがあります。

本人が存命している間に必要な財産+死後事務に必要と思われる財産だけを信託し、残りの財産については公正証書遺言にする、そして認知症になる可能性がゼロでないなら任意後見契約をセットにしておく、というのが理想であるといえます。

桂子 勝